Knowledge Integration through Detecting Signals by Assessing/Scanning the Horizon for Innovation

環境に残された動物の遺伝子(唾液中や糞尿中)からそこに生息する動物を推定する手法、環境DNAの解析が話題になっています。足跡から動物を特定するように、環境に残されたDNAから動物を特定します。環境DNAの新たな展開として、陸水域から海洋へと調査の範囲、最初は土壌微生物を対象とした解析手法だった環境DNAの手法を使っての研究は最近、魚類、ほ乳類へと解析対象が増えています。この優れた解析手法は、多くの共同研究者の手によって、利用の可能性を大きく広げているといえます。

環境DNAから複数種の生物種の分布を迅速に検出する手法の発展に貢献した源利文氏がナイスステップな研究者2016に選ばれ、STI Horizon 2017年夏号には源氏のインタビュー記事を掲載しました1)。インタビューの中で源氏は、環境DNAの解析手法は空間的、時間的、双方の大量のデータの取得を可能にすると述べ、自身では東南アジアなど熱帯地方で貝や魚を介して感染する寄生虫と宿主の分布を把握することで感染症のリスクマップつくりに生かしたいと語りました。

源氏は多くの研究者と共同で研究を行っています。源氏の共同研究者の一人、千葉県立中央博物館の宮正樹部長は、環境DNAに関して源氏と共同研究を行い、230種類もの魚類を正確に判別するという成果を2015年に報告するなど2,3)、これまでも環境DNAの解析手法の改良に寄与してきました。宮氏らの研究チームは海洋での魚類の生態把握の手法を発展させ、森林に生息する哺乳類を効率的に検出する手法の開発に関して、2017年5月と6月に2報の論文で発表しました4-6)

森林に生息する哺乳類を調べるには、自動撮影カメラを設置したり、研究者が直接観察したり多大な労力と費用がかかる上、長期間にわたる調査が必要でした。宮氏と京都大学/JSTさきがけの潮雅之連携研究員、東京農業大学の松林尚志教授、石毛太一郎研究員らは、野生動物が森の泉に来た際に残した唾液や皮膚の断片などを通じて環境中に出す環境DNAを解析することに成功し、哺乳類の検出を可能にしました4, 5)。宮氏らの研究チームは、魚類を対象に開発した方法(MiFish)を応用して、哺乳類の違いが分かるDNAの領域を増幅する方法(MiMammal)を開発し、動物園で飼育しているトラやゾウの飲み水や水浴び場で検証し、手法を確かめたのです。さらに北海道の森林4)やボルネオ島の熱帯雨林6)に生息する哺乳類の検出にも成功しました。

特にボルネオの熱帯雨林では、塩場(動物が塩分などのミネラルを補給するためにも重要な水飲み場となる泉7)、図1)の水を解析し、オランウータンやアジアゾウなど6種類の絶滅危惧種のDNAを検出しました。これらの動物は、現場に設置された自動カメラに映っていたことから、環境DNAの解析精度が検証出来たことになります。

図1 塩場7)の水を飲むオランウータン 東京農業大学松林尚志教授提供

野生動物の調査をするためには、熱帯雨林の奥地に行くことになりますが、行くだけでも大変であるところにカメラを設置したり回収したりすることが必要で、調査には時間と費用がかかります。一方、水を汲んでろ過し、DNAを抽出する環境DNAの解析手法では、水を汲みにいくことは必要ですが、検査は迅速にでき、比較的安価です。本報告は、これまで時間や費用の問題で実現できなかった哺乳類多様性のモニタリングが簡単にできるようになったという点で画期的であり、希少な哺乳類を傷つけることなく、調査が環境に与える影響も少なく、調査する人の危険を低減することにも寄与します。人類が暮らす自然環境破壊、人類と動物との共生、人類への他動物からの脅威の低減など、生活に関わるモニタリングが容易になるということです。動物のモニタリングが簡単になれば、山菜取りに山に入る人間のクマによる被害も減らせるかもしれません。

出典

1)矢野 幸子、佐野 幸一 「ナイスステップな研究者から見た変化の新潮流 神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 源 利文 特命助教インタビュー」STI Horizon Vol.3 No.2 pp13-17, 2017 http://doi.org/10.15108/stih.00075

2)Miya M. et al “MiFish, a set of universal PCR primers for metabarcoding environmental DNA from fishes: detection of more than 230 subtropical marine species” Royal society open Science, 2015 https://doi.org/10.1111/1755-0998.12690

3)科学技術振興機構(JST)、千葉県立中央博物館、神戸大学、共同発表 “東京大学水をくんで調べれば、生息する魚の種類が分かる新技術を開発~魚類多様性の調査にもビッグデータ解析時代の到来~” (平成27年7月22日)http://www.jst.go.jp/pr/announce/20150722-4/index....

4)Ishige T. et al “Tropical-forest mammals as detected by environmental DNA at natural saltlicks in Borneo” Biological Conservation, 210: 281–285, 2017 https://doi.org/10.1016/j.biocon.2017.04.023

5)宮 正樹 “森の動物を飲み水から検出!-森林動物調査の新たな手法を開発・検証-”(2017. 6. 12)http://www2.chiba-muse.or.jp/index.php?page_id=787

6)Ushio M. et al “Environmental DNA enables detection of terrestrial mammals from forest pond water” Molecular Ecology Resources, 2017 

https://doi.org/10.1111/1755-0998.12690

7)松林尚志「ボルネオ熱帯雨林の塩場(しおば)に集う動物たち」 academist Journal (2017.7.10) https://academist-cf.com/journal/?p=5224


これまでの科学技術予測調査における関連トピック

・自然生態系に関する調査、解析技術が進歩し、国土開発に伴う環境破壊の防止が可能となる。第1回(1971年)

http://data.nistep.go.jp/delphi/all/single.php?id=...

・我が国の自然生態系に関する調査が広範に行われ、人間活動によって自然生態系の受ける変化を予測することが可能となる。第3回(1982年)

http://data.nistep.go.jp/delphi/all/single.php?id=...

・身近な生態系の変化を指標とした環境生態インパクト評価手法の確立。第10回(2015年)

http://data.nistep.go.jp/delphi/all/single.php?id=...
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