Knowledge Integration through Detecting Signals by Assessing/Scanning the Horizon for Innovation

植物は自由に移動できないため、環境に対応する様々な仕組みを備えています。約4億5千年前に陸上に進出した植物は、光、重力、水などの刺激を利用して姿勢の制御や成長の仕組みを発達させてきました。根が水分勾配を感知して水分の多い方向に根を伸ばす「水分屈性」もその一つです。しかし、地上では重力の方向に根を伸ばす「重力屈性」の影響に隠れてしまい、言及は古くからあるものの、その存在自体長く証明されていませんでした。

重力に関連する成長の仕組みを研究するのに有用である宇宙環境での検証実験、またシロイヌナズナなど植物ゲノム解読や解析技術の進歩なども相俟って、この20~30年間に植物の水分応答機構解明は着実に進んできました。このような植物の環境応答の仕組みを明らかにすることにより、今後環境ストレス耐性に優れた植物の作出へと発展させることも期待されます。

根の水分応答機構の解明

東北大学大学院生命科学研究科の高橋秀幸教授らは、これまで水分屈性の存在の証明、制御遺伝子の同定、植物ホルモンの一種であるオーキシンやアブシジン酸の働きなど、水分屈性の起こる仕組みについて研究を進めてきました。2017年5月には、英国ノッティンガム大学、山形大学、京都大学、奈良先端科学技術大学院大学等と共同し、シロイヌナズナの根の各部位をレーザで破壊した時の水分勾配による屈曲の有無、突然変異体の根の各部位に水分屈性関連分子を発現させた時の屈曲の再現有無について実験を行い、特に根の伸長領域の皮層が水分屈性に重要な役割を果たし、また、伸長領域が水分勾配の感知と屈曲二つの機能を担っていることを明らかにしました。

図1 根の水分応答モデル1)

宇宙実験が果たした役割

植物の根の屈曲に関する研究は、生理学的研究が中心でしたが、シロイヌナズナを用いた分子遺伝学的研究により分子機構の解明が進みました。水分屈性の研究には、重力の影響を分離する必要があり、重力を変化させることのできる宇宙環境が有用です。重力屈性を欠損した突然変異体を用いた実験やクリノスタット(微小重力環境模擬装置)を用いた模擬実験が進められてきましたが、国際宇宙ステーションでの検証実験が研究の進展に大きな役割を果たしました。

1998年に、スペースシャトルでキュウリの芽生えにおける重力影響を見る実験が行われました。その際、キュウリの側根が、地上では横方向に伸びるところ、水の供給体である支持体に向かって斜め上に伸びる現象が起こり、微小重力下で水分屈性が強く現れたものとして注目されました。2010年には国際宇宙ステーションで水分屈性の実験が組まれました。キュウリの種を水分勾配のある実験容器に入れて根のサンプルが採取され、地上での解析が行われました。これにより、根の両側におけるオーキシン動態制御分子発現の差により屈曲が起こることが検証されました。オーキシン量と水分屈性制御分子発現との関係、水分屈性制御分子発現とアブシジン酸との関係など研究が進み、今回の水分屈性に機能する細胞群の解明にまで至りました。

図2 宇宙実験での根の伸長2
地上重力条件下(下段)では根は重力方向に伸びるが、微小重力条件下(上段)では水分勾配の高い方向に伸びる

作物への応用に向けて

こうした機構解明とともに、水分屈性を強化したシロイヌナズナの作出やその個体の生存能力の研究3)も行われました。今後の基礎的な研究を積み重ね、また超節水型植物工場に向けた水利用・管理システム開発4)などともあわせ、水分屈性を活用した乾燥地での作物品種開発や植物工場等での効率的な水分補給に向けた道が将来的には開ける可能性があります。

根は、水分勾配と重力の影響によりオーキシン輸送が強められたり弱められたりした結果として屈曲します。また種により差異5)があり、シロイヌナズナの水分屈性の機構や重力屈性とのバランスは、例えばイネやキュウリとは異なる部分があります。重力屈性を活用した耐乾性イネの育種研究6)が行われているように、作物を用いた研究への進展が今後の鍵と言えそうです。


出典

1) 東北大学プレスリリース、「植物の根が水を求めて伸びるしくみを発見」(2017年5月10日)(原著論文:Dietrich D, Pang L, Kobayasghi A, Fozard JA, Boudolf V, Bhosale R, Antoni R, Nguyen T, Hiratsuka S, Fujii N et al. 2017. Root hydrotropism is controlled via a cortex-specific growth mechanism. Nature Plants 3: Article 17057 (1-8).)

2) Morohashi K, Okamoto M, Yamazaki C, Fujii N, Miyazawa Y, Kamada M, Kasahara H, Osada I, Shimazu T, Fusejima F, Higashibata A, Yamazaki T, Ishioka N, Kobayashi A, Takahashi H. 2017. Gravitropism interferes with hydrotropism via counteracting auxin dynamics in cucumber roots: Clinorotation and spaceflight experiments. New Phytologist DOI: 10.1111/nph.14689

3) Iwata S, Miyazawa Y, Fujii N, Takahashi H. 2013. MIZ1-regulated hydrotropism functions in the growth and survival of Arabidopsis thaliana under natural conditions. Annals of Botany 112: 103-114

4) 例えば、JST戦略的創造研究推進事業CREST「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」研究領域 平成22年度採択研究課題「超節水精密農業技術の開発」http://www.jst.go.jp/crest/water/publication/pdf/C...

5) Nakajima Y, Nara Y, Kobayashi A, Sugita T, Miyazawa Y, Fujii N, Takahashi H. 2017. Auxin transport and response requirements for root hydrotropism differ between plant species. Journal of Experimental Botany doi: 10.1093/jxb/erx193

6) 宇賀優作、深根性遺伝⼦による根系の形態の制御は⼲ばつのもとでのイネの増収を可能にする:ライフサイエンス新着論⽂レビュー DOI: 10.7875/first.author.2013.107 (原著論文:Uga Y, et al. 2013. Control of root system architecture by DEEPER ROOTING 1 increases rice yield under drought conditions. Nature Genetics 45: 1097-1102)


これまでの科学技術予測調査における関連トピック

  • 砂漠(乾燥地帯)等の耕作不適環境でも収穫が期待できる作物(2015年:第10回)
  • 環境適応能力(耐塩性、耐乾性、耐寒性)の向上と成長をコントロールすることによる砂漠などでの作物生産・緑化技術(2010年:第9回)
  • 植物における成長調節物質の生合成、輸送、受容体を介したシグナル伝達機構の解明に基づく、作物・樹木の成長制御技術(2010年:第9回)

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