Knowledge Integration through Detecting Signals by Assessing/Scanning the Horizon for Innovation

紙の代替となる可能性を秘めた新素材の開発

2015年9月、国際連合の国連持続可能な開発サミットにて、持続可能な開発目標(SDGs)1)が採択されました。このSDGsには17のグロ−バル目標が掲げられていますが、そのうちの一つに「すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」という目標があります。世界では未だ水へのアクセスが困難な方が多く、また人口増加に伴う衛生的な水の不足も大きな問題となっています。限られた資源である水の使用量をいかに減らすかが重大な社会的ニーズになっていると考えられます。

SDGsにも掲げられた、この水の使用量削減という社会的ニーズに対応すべく、株式会社TBM(以下、TBM)では紙の代替素材となる可能性を秘めたLIMEX(ライメックス)という製品を開発しました。この製品は、石灰石60%以上を含んだ素材でありながら、紙の代替品となり得る性質を持っています。石灰石を主原料とした紙の代替品、いわゆるストーンペーパーはTaiwan Lung Meng Technology Co.,Ltd.2)等で既に製品化、販売実績もあるものの、TBMはより高品質かつ安価での製造を実現するため、製造工程など新たに自社開発し製品化を進めています。

一般的に紙の製造には大量の水を必要としますが、LIMEXは、製造過程において水をほとんど使いません。また国立大学法人東京大学 生産技術研究所 沖研究室との共同研究を通じ、原材料調達から製品化までのライフサイクルアセスメント(LCA)評価でも一般的な洋紙と比較して水の使用量を大幅に減らせることを公表しています(図表1)3)。石灰石自体も日本国内において約240億トン、世界各地でも十分な埋蔵量が確認されており、水の使用量削減、素材採掘等、SDGsで掲げられている持続可能というコンセプトを実現可能な新素材として期待されます。



図表1:主要な産地別における洋紙とLIMEX紙代替製品の水消費量比較(LIMEX紙代替製品の水消費量は20m3/t)


紙の代替品としての製品化に向けた課題

現在、既に名刺、メニュー表、容器類など一部の製品分野で実用化が進んでいますが、更なる販売量の拡大に向けてキーとなるのが素材を均一に混ぜる技術と、混ぜた素材の塊を均一に延ばしてシート状に加工する技術です。 ノートのように私たちが普段何気なく使用している紙製品は約80~100マイクロメートル(μm)の厚みです。現時点LIMEXでは粉末石灰にポリエチレンなどを混ぜ、圧力をかけて押し出したものをシート状に引き伸ばす方法で、約200マイクロメートルで十分均一な厚さを保つ技術を実現しており、名刺や広告用ポスターなど少し厚みがありかつ高価な紙製品の代替としての製品化が進められています(図表2)。

一方、ひとことで紙製品と言っても様々な用途・製品があるため、今後は撥水性など石灰石をベースとした素材の特長を活かしつつ、技術革新を重ねることで付加価値を高めると共に、インクジェットプリンター等のより汎用性の高い印刷機器へも対応させるなど、競争力を高めていくことが重要と考えられます。



図表2:紙の代替製品の事例(株式会社TBMより提供)


今後の量産、用途拡大に向けて

紙以外ではプラスチック製品の代替品(図表3)や全く新しい用途拡大に向けた研究開発も進められています。石灰石の組成や素材としての原理解明、加工法など学術的な研究活動の広がりと共に、セラミックなどより高付加価値な製品の代替、更には今まで考えられなかった全く新しい組成・用途が見つかる可能性を秘めています。


図表3:プラスチックの代替製品の事例(株式会社TBMより提供)


2016年11月には凸版印刷株式会社とTBMの間でLIMEXの用途開発に関する業務提携が発表されました4)。また、経済産業省のイノベーション拠点立地推進事業「先端技術実証・評価設備整備費等補助金」5)及び「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金(製造業等立地支援事業)」6)の採択を受け、量産工場の建設も進んでいます。

今後、このような業務提携や政策による支援など、広く産学官を巻き込んだオープンイノベーションを進めていくことで、日本発のスタートアップが保有するシーズを、より広い意味で産業化し、グローバルに新たなイノベーションを起こしていく取り組みが期待されます。


出典


これまでの科学技術予測調査における関連トピック

新素材を用いた新しい構造用材が開発され、建築、橋梁、堰堤等へ利用される(2005年:第8回)

誰もが同じような解を簡単に算出できる、客観的・定量的手法として標準化されたライフサイクルアセスメント( LCA)およびライフサイクル費用評価(LCC)(2010年:第9回)



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