Knowledge Integration through Detecting Signals by Assessing/Scanning the Horizon for Innovation

バイオセメンテーション

微生物の機能は、医薬品やバイオエネルギーなど様々な分野で研究開発が進められ、実際に多くの製品で既に活用されています。

最近では、土木の分野でも微生物の有用性が注目されています。微生物の機能を利用した新しい地盤改良技術のうち、地盤の強度や止水性を向上させる技術のことをバイオセメンテーションと言います1)

バイオセメンテーションの中でも、Microbially-induced carbonate precipitation(MICP)法と呼ばれ、尿素分解菌による尿素の加水分解作用を利用して、地盤の間隙中に炭酸カルシウムを析出させて地盤を固化させる方法が、国内外で広く研究されています。

バイオセメンテーションのメリットと課題

微生物の機能を地盤改良に活用する最大のメリットとしては、環境負荷の低減が挙げられます。一般に地盤改良に使用されるセメント系固化材は、有害な六価クロムが溶出する可能性があり厳重なチェックが必要です。他には、pH値が約12~13と非常に高いため、地下水汚染に注意する必要もあります。一方、バイオセメンテーションの場合、MICP法により地盤を固化させる際に用いられる炭酸カルシウムや、シリカ、リン酸カルシウムなどは、いずれも生体内や自然界に広く存在する鉱物です。また、一般のセメントに比べ、原料起源及び製造由来のCO2排出量が少ないことも大きなメリットです。

社会実装に向けた課題のうちの一つに、いかにして既存の生態系に影響を与えない工法を確立するかという点が挙げられます。MICP法では、非常に大量の微生物を地盤中に注入あるいは添加します。多くの研究で活用されている外来の微生物であるSporosarcina pasteuriiなどを日本国内で適用した際に、周辺の微生物環境への影響をどう評価するか、またそもそも外来種ではなく地場の微生物を培養・活用する工法の開発などが必要です2)

オランダやアメリカなどでは、新技術の導入に対して積極的なこともあり、既にMICP法による現場試験施行が実施されています。適切な規制や指針を設けることと、新技術を実装させるため、積極的に研究環境を整えることのバランスが重要と考えられます。そのためには、既存の地盤工学の考え方のみならず、生物学などの知見を積極的に取り入れ、環境負荷の少ない地盤改良技術の進展へ向け、制度設計を進めていく必要があります。

その他の注目研究領域及び国内外の研究活動

微生物の機能を利用する、関連の研究領域として、微生物を用いて汚染土壌などを修復するバイオレメディエーション、コンクリートなどに微生物を混入させることで亀裂の自己修復機能を持つバイオコンクリート、有害な金属あるいは貴重・有用な金属などを吸着させて回収するバイオソープション、鉱物を生成させるバイオミネラリゼーションや、ビーチロック(図1)の形成メカニズムとその応用3)などがあります。

図1:ビーチロック(海浜の砂礫が石灰質の物質によって自然に固化した岩)

(北海道大学 川﨑了教授より提供)

 

海外では、オランダ、シンガポール、イギリス、アメリカなどで研究が盛んですが、特にアメリカのArizona State universityのEdward Kavazanjian教授が5年間で約20億円の予算支援をNational Science Foundation (NSF) から受け、Center for Bio-mediated and Bio-inspired Geotechnics (CBBG)4)という教育研究機関を設立するなど、研究活動が活発になってきています。

日本では、2017年度に「次世代地盤改良技術に関する研究委員会」が(公社)地盤工学会に発足しました5)。土木工学だけでなく、生物学、化学や地学など、様々な研究領域にまたがった学際的な研究領域ですので、今後、様々なバックグラウンドを持った研究者の参画が期待され、更なる研究活動の拡大、また社会実装に向けた動きが注目されます。

謝辞

本記事を執筆するにあたり、北海道大学大学院工学研究院環境循環システム部門 川﨑了教授に、研究内容や動向について詳しくご教示頂きました。ここに感謝の意を表します。

科学技術専門家ネットワークの専門調査員に情報提供頂きました。

参考文献

1) 川﨑了, “微生物機能を利用した地盤改良技術の現状”, Journal of MMIJ, vol.131-5, (2015), 155-163

    https://doi.org/10.2473/journalofmmij.131.155

2) 畠俊郎 他, “高有機質土(泥炭)由来の土壌微生物による炭酸カルシウム析出技術に関する実験的研究”, 土木学会論文集C(地圏工学), vol.68, No.1, (2012), 31-40

    https://doi.org/10.2208/jscejge.68.31

3) 檀上尭 他, “セメント物質に着目したビーチロックの形成メカニズムに関する考察”, Journal of MMIJ, vol.129-7, (2013), 520-528

    https://doi.org/10.2473/journalofmmij.129.520

4) Center for Bio-mediated and Bio-inspired Geotechnics HP :

    https://cbbg.engineering.asu.edu/

5) 公益社団法人 地盤工学会 HP, 「次世代地盤改良技術に関する研究委員会」:

    https://www.jiban.or.jp/?page_id=6331

これまでの科学技術予測調査における関連トピック

植物・微生物を利用して土壌中のダイオキシン類や重金属、レアメタルを効果的に除去、抽出する技術(2015年:第10回)


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