Knowledge Integration through Detecting Signals by Assessing/Scanning the Horizon for Innovation

我が国でも気候変動の影響が拡大化

 我が国でも、気温の上昇や大雨の増加等、気候変動の影響が顕著になっています。気候変動は、農作物の品質低下や動植物の分布域の変化、熱中症などの健康リスク、洪水・浸水などの災害リスクの増加をもたらし、既に私たちの環境、生活、社会、経済に小さくない影響を与えています。今後も、気候変動の影響が長期化及び拡大化するおそれがあることから、2018年6月13日に気候変動適応法が公布されました1。同法は、国、地方公共団体、事業者、国民が連携・協力して、気候変動の影響による被害の回避・軽減の対策を推進することとされています。

気候変動の影響の現状と将来予測の共有

 気候変動に備えるには、気候変動の現状と将来の予測、気候変動が及ぼす影響について、最新の科学的知見に基づいた体系的な情報を関係者で共有して対策を講じることが重要です。こうした状況に対処するため、環境省・文部科学省・農林水産省・国土交通省・気象庁の5省庁の協力で、「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018」2が作成され、2018年2月に公表されました。レポートには、観測技術(観測衛星含む)や気候変動がもたらす世界への影響のみならず、日本への影響について、特に、農林水産業、水環境・水資源、自然生態系、自然災害・沿岸域、健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活の7分野における、最新の情報や研究成果が掲載されています。

農業における気候変動の影響の増加

 影響評価統合レポートに示された気候変動の影響の事例のうち、農作物に関するものを表1にまとめて示しました。主食のコメ以外にも、野菜や果樹など様々な種類の農作物が気候変動の影響を受け、その発生の頻度も増加しています。

 例えば、気候変動の将来予測結果によると、2060年代には温州ミカンの現在の栽培地の多くが温州ミカンの栽培に有利な年平均気温15~18度を超え、栽培に不適な気候になると予想されています2。さらに、現在東北地方で問題になりつつある細菌感染によって穂枯れが起きるイネ紋枯病は、高温で多発する病害で、2090年にはその被害は2010年の約1.8倍となると予測されています2

 

表1 農作物における気候変動の影響の例(参考文献2より)

 

気候変動の影響を新たな農作物の可能性に繋げる

 一方、気候変動の影響をプラスに捉えて、新たな農作物の栽培に繋げる動きも見られます。

 例えば、愛媛県では夏場の高温にも強いブラッドオレンジであるタロッコや、アボカドが栽培され始めています2。また、ワイン用ブドウ栽培の北限の地と呼ばれていた北海道では、温暖化により、ワイン用ブドウ品種のピノ・ノワールの栽培が1998年頃から可能となっており(図1)、今後、さらに北海道の各地でピノ・ノワールの栽培適地が増えるのではないかと予測されています3

図1 北海道各地の4~10月の平均気温の推移とピノ・ノワールの適温下限(参考文献3より)

気象データを活用した農業支援システムの開発

 中長期の気候変動への対応に加えて、農業に気象予報を活用して作物の成長を予測し、植え替えの時期や水の管理、肥料の量を調節するといった、気象の短期的な変化に対応した栽培法の取組も始まっています。

 こうした管理の基礎となるシステムが、農業環境変動研究センターが開発した農業気象予報システムである「メッシュ農業気象データシステム」4です。農業現場での気象情報の有効活用を目指して、2018年4月2日に農研機構のウェブ上で一般公開されました。

 このシステムは、およそ20kmの単位(メッシュ)で全国の気象を知らせるアメダス(地域気象観測システム)や、気象庁の実況値及び数値予報などを利用して、全国の約1km四方の単位の日別気象データや温暖化シナリオをオンデマンドで提供できます4。提供可能な気象データは14種類(気温・降水・日照・風速・積雪など)で、データは日々更新され、1980年から来年(2019)までの広い期間のデータが採録されています4。また、これらのデータは、初心者にも扱いやすいプログラミング言語 Python(パイソン)でデータ解析できるように提供されています。

我が国の農業のスマート化

 近年の気候変動とその影響は、これまでの農業従事者の経験や知識から対処できる程度を遥かに超えるものです。こうした中、メッシュ農業気象データシステムにより、多くの農業従事者等の関係者が多様なデータをオープンで自由に利用できるようになったことは、栽培管理や病虫害予防などへの活用のみならず、データ駆動により農業をスマート化させていくうえで重要な基盤となると期待されます。

 

情報源(参考文献やURLなど)

1.  環境省,気候変動適応法(平成30年6月13日公布)

2.  環境省,文部科学省,農林水産省,国土交通省,気象庁 (2018)「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~」

3.  広田知良,山﨑太地,安井美裕,古川準三,丹羽勝久,根本学,濱嵜孝弘,下田星児,菅野洋光,西尾善太 (2017)「気候変動による北海道におけるワイン産地の確立-1998 年以降のピノ・ノワールへの正の影響-」生物と気象 17:34-45.

4.  農研機構メッシュ農業気象データシステム(2018年4月2日公開)

 

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