Knowledge Integration through Detecting Signals by Assessing/Scanning the Horizon for Innovation

幹細胞を投与する治療法細胞シートの開発、ゲノム編集を使って臓器の機能不全を治療する方法の開発が進んでいます。中でも困難度が高い、幹細胞から臓器を作る研究も急速に進展しています。臓器の芽を作る研究やバイオマテリアルの3Dプリンティング技術が進み、生体外で立体臓器を構築することが現実味を帯びてきています。また動物の体内でヒトの臓器を作らせる試みも次々と報告されています。

臓器移植の社会的なニーズは大きい

臓器の機能不全により移植を待つ人は日本に13,000人います1)。それに対して移植を受けられる人は年間300人です。世界的なドナー臓器の不足の現状から、治療用のヒト臓器を作り出すための技術開発が求められており、移植可能な臓器を幹細胞から作ることは、再生医療の重要な目的の一つとなっています。

臓器の三次元構造を作るための研究動向

臓器を作るためには臓器の三次元的な構造を再現しなければなりません。臓器には血管の細胞や立体構造を支える細胞など複数種類の細胞が共存しており、非常に複雑な臓器形成の過程を経て、様々な種類の細胞が相互作用しながら臓器が形成されます。横浜市立大学大学院医学研究科臓器再生医学の研究グループは、2013年、ヒトiPS細胞から血管構造を持つ肝臓を世界で初めて創り出すことに成功しました2, 3)。iPS細胞を混合して立体構造を構築させ、臓器の原基(臓器の芽)の状態で移植するという新しい発想です(図表1)。さらに2017年、1細胞レベルの全遺伝子発現情報を、ビッグデータ解析技術を活用して解析しました4)。その結果、肝臓発生過程における複雑な過程に関する情報を得ることができました。つまり、ヒトiPS細胞から作製した細胞や組織を精度高く品質評価するための情報を得ることができたので、臓器を作るための研究が大きく進展しました。しかし大人の臓器サイズに十分な数の細胞を体外で準備するまでには至っていません。


図表1 ヒト肝臓原基(肝芽)を移植するという横浜市立大の新しい発想2)

バイオ3Dプリンタなどの工学技術の活用

工学技術を利用して細胞から立体の組織や臓器を作製するバイオファブリケーションの基盤研究も進んでいます。バイオファブリケーションによる人工臓器の製造の基盤研究分野では三次元組織作製へ向けた細胞操作技術開発が進んでいます。播種した細胞を足場となるコラーゲンなどの細胞外マトリックスと一緒に培養することにより、立体的な組織を構築することができるようになり、細胞の播種と足場作製を同時に行うことで異なる材料や細胞の位置を制御することにも成功しています5)。またバイオ 3D プリンタや細胞シート積層技術などの立体造形技術を用いて、立体組織・ 臓器を製造する研究開発が進められています。しかし血管などが入り組む臓器そのものをプリントするには至ってはおらず、組織の中でも比較的均一な細胞から成る骨、血管、心筋をターゲットとしています6)。複数種類の細胞の同時プリントができるようになることが技術飛躍の鍵だと考えられます。

異種間の臓器移植

臓器不足を解決する手段として、ブタを利用したヒト臓器の再生医療関連のニュースも報じられています。ブタは非常に広い地域に分布していて、短期間で繁殖する上、人間の臓器と同じくらいの大きさの臓器をもち、生理的機能も似ています。しかし異種移植で問題となるのは、臓器の拒絶反応や、動物がもつ危険なウイルスの感染です。ハーバード大学の研究者チームは拒絶反応に関わる免疫系やウイルスの感染に関係する60の遺伝子をゲノム編集技術CRISPR/Cas9システムにより改変し、上記問題を取り除いたブタの胚を作製しました7)

胚盤胞補完法による異種間臓器再生

iPS細胞とゲノム編集の技術を使って動物にヒト由来の臓器を作らせるようにすることも技術的には可能です。ソーク研究所のチームは、ヒトiPS技術によりヒトの臓器の原型となる組織をブタに作らせることに成功し、ヒトへの移植に向けて第一歩を踏み出しました8)。また東大のチームは動物の個体内でヒト臓器を作る(図表2)前段階の研究としてラットにマウスのすい臓を作らせてマウスに移植し、正常に機能することを確かめました9)。しかし動物でヒトの臓器を作ることは倫理面で議論がある上、動物の細胞が臓器に入り込むという問題があるため、ヒトへの移植までには至っていません。


図表2 動物の個体内でヒト臓器を作るイメージ10)


このように、再生臓器移植の実現のための研究が進んでいますが、課題は残っており、更なる研究の発展が期待されます。特に異種間臓器再生と移植の実現には生命倫理や安全性の課題をクリアすることも重要です。文部科学省の生命倫理・安全部会の特定胚等専門委員会では慎重な議論を継続しています。


情報提供者 国立大学法人電気通信大学大学院 情報理工学研究科助教 牧 昌次郎 NISTEP専門調査員

出典

1) 公益社団法人日本臓器移植ネットワーク 「臓器移植について」 

2)インタビュー『“未来”の担い手たち』新たな視点から再生医療にアプローチする(1)-全2回-武部 貴則 氏

3) Takebe T. et al “Vascularized and functional human liver from an iPSC-derived organ bud transplant” Nature, 499, 481–484, 2013

http://www.nature.com/nature/journal/v499/n7459/full/nature12271.html

4) Camp G. J. et al “Multilineage communication regulates human liver bud development from pluripotency” Nature 546, 533–538

http://www.nature.com/nature/journal/v546/n7659/full/nature22796.html

5) 岩永進太郎、竹内昌治 “3次元組織生産のためのバイオファブリケーション技術とその応用展開” 「バイオ・医療への3Dプリンティング技術の開発最前線」 監修:中村真人、シーエムシー・リサーチ(2016) III章 再生組織・臓器の製造技術の開発 第1章 再生組織・臓器の製造技術の開発(プリンター・装置の開発) P143

6)蒲生秀典、”デジタルファブリケーション・医療応用のHorizon” STI Horizon Vol.2 No.1 24-31、2016 http://dx.doi.org/10.15108/stih.00016

7) Reardon, S. “Gene-editing record smashed in pigs” Nature News 2015

http://www.nature.com/news/gene-editing-record-sma...

8) Wu J. et al “Interspecies Chimerism with Mammalian Pluripotent Stem Cells” Cell, 168, 473-486, 2017 http://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(16)31...

9) Yamaguchi T. et al “Inter species organogenesis generates autologous functional islets” Nature, 542: 191-196, 2017 http://www.nature.com/nature/journal/v542/n7640/full/nature21070.html

10) インタビュー『この人に聞く』血液幹細胞研究から異種間臓器再生まで(1)-全2回-中内 啓光 氏 

これまでの科学技術予測調査における関連トピック

・薬効・安全性評価への利用可能な、生体中での機能を再現する、多能性幹細胞由来の人工臓器(2015年:第10回調査)http://data.nistep.go.jp/delphi/all/single.php?id=...

・動物性集合胚(動物の胚に人間の細胞を注入したキメラ胚)から作出された、ヒト幹細胞由来の移植用臓器(2015年:第10回調査)http://data.nistep.go.jp/delphi/all/single.php?id=...

・臓器機能回復を可能にする新規抗線維化薬(2015年:第10回調査)http://data.nistep.go.jp/delphi/all/single.php?id=...

・バイオプリンティングによる再生臓器の製造(2015年:第10回調査)http://data.nistep.go.jp/delphi/all/single.php?id=...


コメント欄を読み込み中