Knowledge Integration through Detecting Signals by Assessing/Scanning the Horizon for Innovation

日本が先導する超高精細8K映像技術

現在普及するフルハイビジョン(2K)の16倍の約3300万画素を有するスーパーハイビジョン(8K)[1]の医療応用が注目されています。8KはNHK放送技術研究所が1995年から世界に先駆け開発と国際標準化を進めてきた超高精細映像システムで、画素密度は人間の網膜に迫り、人に現実と同等の臨場感を与える解像度(視野角:100°)をもつとされています(図表1)1)。一方、現在の医療では、腹腔鏡などの内視鏡や顕微鏡、術野カメラなど、カメラ・画像技術が不可欠となっていますが、医療現場での利用は2Kに留まっています。

図表1 現実レベルの臨場感を実現する8K 1)

超小型軽量8K内視鏡の開発

産学医工連携の医療機器開発組織である一般社団法人メディカル・イメージング・コンソーシアムは、国立研究開発法人国立成育医療研究センターとNHK放送技術研究所の共同で、2014年に8K内視鏡プロトタイプを開発しました。そしてこれを基に、2016年に同コンソーシアム発のベンチャー企業であるカイロス株式会社が、医師が一人で持てる超小型軽量8K内視鏡を開発しました(図表2)2)。これまで2.2kgあった8K従来機の約1/5の450gを実現、心臓やがんなど長時間の手術にも使えるようになります。新型の単板式CMOS(相補型金属酸化膜半導体)撮像素子の採用やレンズ系を改善し明るさを向上するなど、医療用に特化することで実現しました。手術時に8K内視鏡を使うことで、細い血管やがん細胞と正常細胞の境界がより正確に分かるようになり、手術の精度・安全性の向上が期待できます。また、大画面の8Kモニタに表示することで、複数の医師・看護師がリアルタイムに同時に見ることが可能となり、的確な判断や人材の育成にも役立ちます。さらに同コンソーシアムでは、遠隔での画像診断に必要な大容量伝送システムの導入や省スペースケーブルの開発も併せて進めています1,3)

図表2 超小型軽量8K内視鏡2)

医療現場への普及に向けて

患者への負担の少ない内視鏡手術の需要が増大する中、専門医師不足が顕在化しています。現状では内視鏡手術は高度な技術を要し、技術習得のための経験が必要となっています。8Kが医療現場に広く普及できれば、医師の育成を助け高度な技術が不要となる可能性があります。さらに、小型軽量化・操作性の向上により医師一人での手術も可能になり、内視鏡専門医不足の解消に繋がることが期待されます。現状では8Kモニタをはじめシステム機器が高価であることが普及の課題となっていますが、今後2020年の東京オリンピックに向け民生用8Kシステムの開発が進むことで、機器価格は低減すると予想されます。

また、8K技術を活用することで、高い臨場感と実物感を保持した医療現場の映像を遠隔地に伝えることができるため、従来の遠隔医療では対応が困難であった細かな病変の発見等が期待されています。総務省では2016年12月から、図表3に示す2つのモデルについて遠隔医療の実証試験を開始しています4)

図表3 8Kを利用した遠隔医療の実証試験4)

国際競争力の高い医療システム開発

今後、医療分野のデジタル高精細画像の蓄積・データベース化が進み、さらにビッグデータを利用した画像や心電図等の自動診断や鑑別診断・治療法決定の支援などにおいて人工知能の重要性が増すと考えられています。日本が独自技術を有する8K高精細映像技術をベースに、ハードウェアのみでなく画像データベースやその利用も含めた医療システムとしての開発・普及を促進することで、医療機器の輸入超過対策、さらには医療経済への貢献も期待されます3)


参考文献

1) 山下紘正、「8K超高精細映像技術を活用した医療応用について」、第9回光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点シンポジウム、p79 (2016.11.1、東京).

2) カイロス株式会社ホームページ; http://kairos-8k.co.jp/

3) 千葉敏雄、金光幸秀他、AMEDシンポジウム2017、ワークショップ「8K高精細画像技術は治療現場に何をもたらすか」(2017.5.30、東京).

4) NTTコミュニケーションズ(株)プレスリリース、「8Kスーパーハイビジョン技術を活用した遠隔医療の実証実験について」: http://www.ntt.com/about-us/press-releases/news/ar...


これまでの科学技術予測調査における関連トピック

外科医師の経験を補い、直径1mm以下の血管の円滑な吻合を可能にする手術支援デバイス(2015年:第10回)

直径2mm以下の超微細内視鏡及び内視鏡手術デバイスによる、傷が残らない超低侵襲手術(2015年:第10回)

QoE (Quality of Experience)が保証され、8K品質の遠隔会議や遠隔教育を移動端末を用いて可能な、無線アクセス技術(2015年:第10回)

バーチャルリアリティ技術を駆使した遠隔手術システム(2005年:第8回)

4000×4000画素の高精細度映像の撮像素子が開発される。(2001年:第7回)



[1]水平方向(走査線側)の画素数が7680画素で約8000であることから8Kと呼ばれる。国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)においては、Ultra-high-definition television (UHDTV)と定義されている。