Knowledge Integration through Detecting Signals by Assessing/Scanning the Horizon for Innovation

 

仕事と雇用の未来

2013年のオックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授の研究などをもとに、AI・ロボット[1]の普及により、「今後20年の間に人間の仕事が半数近く奪われる」といった議論が社会的関心を呼んでいます。事実、欧米において弁護士の補助をするパラリーガルの世界などでは、大きな影響があったといいます。また、将棋におけるプロ棋士の世界でもプロ棋士が研鑽を積む過程でAIを駆使して打ち手を考えることが一般的になっているといいます。何より、囲碁の世界では、グーグルの親会社アルファベット傘下のDeepMind(ディープマインド)が開発した、「AlphaGo」(アルファ碁)と呼ばれるプログラムが世界最高ランクのプロ棋士を2016年に破るなど、世界に衝撃を与えてきたのは有名です。

AI・ロボットの方をリストラした変なホテル

このように、AIがこれまで人間にしができないと思われていた高度な仕事を奪っているようにみえる一方、その逆の事例が出てき始めました。いわば、人間がAI・ロボットによって「リストラ」されるのではなく、いち早く導入されたAI・ロボットの方が人間によって置き換えられ、リストラされるという状況です。

「初めてロボットがスタッフとして働いたホテル」として英国のギネスブック社の認定も受けている長崎県佐世保市の「変なホテル」では、ピーク時(201710月)は27種類243体が稼働していた目玉だったロボットの数を減らす動きが出ています。ここでは、「ロボットからの脱却」(=リストラ)を図り、9月現在16種類85体にまで減らしたそうです。長崎新聞の報道によれば、客室に置いた音声認識ロボットは、認識の精度が低く、各部屋からの呼び出しに従業員が対応しなければならなかったことや、開業4年目に入り、メンテナンスも増加し、起動やシャットダウンに手がかかることもネックだったそうです。

社会からの期待の変化

また、された新興先進技術の流行サイクルを図示することで知られるガートナー社のハイプサイクル[2]20188月発表)によると、「スマート・ロボット」、「自律モバイル・ロボット」は、黎明期からちょうど「過度な期待のピーク期」に入った段階にあるとしています。このため、2018年現在AI・ロボットなどに対する社会からの過剰な期待になっている可能性(兆し)があります。

人間とAI・ロボットがともに迫られる適応

こうした一連の動きをみていて面白いのは、AI・ロボットの活躍で、人間にしかできないと思われがちな「高度」な仕事・サービスが減っていて、単純作業が残るという意外な展開になっていることです。そもそも、AI・ロボットは、ソフトウェアとしての側面(認知・判断)とハードウェアとしての側面(身体)があり、ハードウェアとしてのロボットには、人間と同じ「身体」(ロボットの「身体性」)があります。皮肉なことですが、急速に発展するソフトウェア(AIなど)、さらには、社会から求められる機能(ニーズ)に対応するためには、物理的な機能面でも常にアップデートしていかなければ、ロボットといえども淘汰されてしまう運命にあるわけです。

もちろん、AI・ロボットが社会からこのまま全くいなくなるといったことは考えにくいです。また、人間の生物学的な環境適応は数百年単位で発生するもので、明らかに苦労するのは人間の方でしょう。しかし、比ゆ的な言い方をすれば、急速に発展するソフトウェア(認知・判断を行う「頭脳」機能)とハードウェア(身体)のバランスをどのようにとっていくのかは、人間とAIの関係のみならず、AIとロボットにとっても共通の課題とも言えなくはありません。言い換えると、頭脳と身体を持つ人間とロボットの悩みには案外共通点があるのかもしれません。


[1] ここでいう「AI・ロボット」とは、技術的に厳密に定義して用いてはいないことにあらかじめ留意されたい。昨今の報道等社会で見られるような一般的な議論に対応した用語としてこれらを総称して用いている。本稿では、AIは、機械学習などを含めた関連するソフトウェア技術を幅広く一般的に指す概念、ロボットとは、「センサー、知能・制御系、駆動系の3要素」を有するハードウェアという意味でとらえている。

[2] ハイプ・サイクル(hype cycle)とは、技術の普及度やトレンド遷移を示すグラフ・チャートである。IT分野関連の調査及びコンサルティングを行う米国の企業のガートナー社独自のグラフであり、技術普及のプロセスを、①黎明期、②過剰な期待のピーク期、③幻滅期、④啓蒙活動期、⑤生産性の安定期の5段階に分け、それぞれの技術をグラフ上にプロットする。参考文献に示す2018年夏に発表されたハイプ・サイクルは先進技術版であり、分野別ハイプ・サイクルよりも新興・萌芽技術の発見や政策検討の目的では注目すべきものといえる。


参考文献

  1. 「変なホテル」 ロボットから脱却 長崎新聞 2018.10.19
  2. ガートナー ジャパン株式会社「ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2018年」を発表 人とマシンの境界を曖昧にする先進テクノロジ・トレンドが明らかに 2,000を超えるテクノロジから重要な知見を抽出」2018.8.22
  3. オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」現代ビジネス 2014.11.08
  4. 押し寄せる自動化の波、弁護士は生き残れるのか? MITテクノロジーレビュー 2018.1.8

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