Knowledge Integration through Detecting Signals by Assessing/Scanning the Horizon for Innovation

ウェアラブルデバイスの進展

近年、腕時計型や眼鏡型などのウェアラブルデバイスが徐々に普及し、ヘルスケアなどの生体センシング機能を搭載した製品も増えています。研究開発レベルでは、PETフィルムなど曲げられる基材上にセンサなどを搭載する各種フレキシブルデバイスが考案・試作されています。今後、より自然に、身体に直接つける様々なウェアラブル機器が開発されることが予想されます。生体とデバイスを融合するヒューマン・マシン・インターフェースとしての基材が、プラットフォームとしてその重要度が増しています。

バイオマテリアルナノシートの創製と医療応用

医理工融合研究を推進する早稲田大学先端生命医科学センター(TWIns)[1]の研究グループは、高分子膜をナノオーダーに極薄く形成すると下地との密着性が増大することを見出し(図表1(a))、粘着剤を使わずに生体組織表面を覆うことができる高分子ナノシートを開発しました1)。数十~数百nmの膜厚に対して数cm2以上の面積の自立した高分子ナノ薄膜からなり、スピンコート(遠心力による薄膜形成法)で容易に形成できます。キトサン、アルギン酸、あるいは、ポリ乳酸などさまざまな生体材料(バイオマテリアル)で作製可能です。研究グループでは、ナノシートの医療応用として、肺に孔の開く病気(気胸)に対してナノシートを絆創膏のように貼って閉鎖と修復を試みる動物実験を行いました。その結果、従来のシート状フィブリン糊と比較して他の臓器への癒着がなく、肺表面の滑らかな形状を維持しており、修復部には新たな血管ができることが確認されています。現在、医療機器や製薬メーカーとの共同研究により、臨床試験を始めるための準備を進めています。また、大学発ベンチャーであるナノシータ(株)と素材メーカーとの共同開発により、ロール・ツー・ロール法による大量生産にも成功し(図表1(b))、腹腔内等の外科手術の際に使用する新たな癒着防止材として事業展開を予定しています。

 

 

早稲田大学 藤枝俊宣講師 ご提供資料

(a)ナノシートの厚みと接着力の関係             (b)ナノシートの大量生産法(ロール・ツー・ロール)
図表1 ナノシートの特徴と作製方法

 

生体センシングへの応用

一般的な高分子材料が利用でき簡便で低コストに作製できるナノシートを用いて、生体センシングなどへの適用など広範囲な応用研究が進められています(図表2)。例えば、導電性高分子からなるナノシートを電極として用いることで、筋肉に力を入れたときに発生する電位測定が可能となります。従来の電極では、ゲル状の糊を用いて皮膚に取り付けるため、汗蒸れによる電極の脱落や糊による皮膚への違和感が生じてしまい、自然な動きの中での計測ができませんでした。ナノシート電極では、貼り付けていることが気にならないだけでなく、柔らかさを利用して身体の様々な部位に貼れるため、従来のゲル電極では測定しにくいような部位(手のひら・足の裏など)のデータも得られます2)。また、転写技術や分子集合技術を利用して、微細構造(微細溝・マイクロパターン・多孔質)をナノシートに付与し、細胞や薬剤を積載して運ぶ(移植する)“ナノカーペット”が開発されています3)。この時、薬剤の代わりに温度感受性色素を導入すれば、生体組織の発熱状態をマッピングする“ナノシート温度計“を作製することができます4)

生体に適合し強い密着性を示すナノシートは、細胞・感受性色素・導電性インクなど様々なものを搭載するプラットフォームとしての高い拡張性をもっています。今後、デバイス工学や医療・バイオとの融合を深め、ナノシートを基材とした多様なウェアラブルデバイス、さらにはインプランタブルデバイスへの応用展開が期待されます。

 

ns2.png

早稲田大学 藤枝俊宣講師 ご提供資料

図表2 ナノシートのアプリケーション群

 

参考文献

  1. T. Fujie, “Development of free-standing polymer nanosheets for advanced medical and health-care applications”, Polym. J., 48, 773 (2016)
  2. A. Zucca et al, “Roll to Roll Processing of Ultraconformable Conducting Polymer Nanosheets”, ACS Appl. Mater. Interfaces, 3, 6539 (2015)
  3. T. Fujie et al, “Micropatterned Polymeric Nanosheets for Local Delivery of an Engineered Epithelial Monolayer”, Adv. Mater., 26, 1699 (2014)
  4. T. Miyagawa et al, “Glue-Free Stacked Luminescent Nanosheets Enable High-Resolution Ratiometric Temperature Mapping in Living Small Animals”, ACS Appl. Mater. Interfaces, 8, 33377 (2017)

 

参考

 

これまでの科学技術予測調査における関連トピック


[1]2008年4月に創設された、東京女子医科大学と早稲田大学による医理工融合研究教育拠点「東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設」。通称は、”双子”という意味を持つ「TWIns(ツインズ)」。


コメント欄を読み込み中