Knowledge Integration through Detecting Signals
by Assessing/Scanning the Horizon for Innovation

 現代の科学研究者は主に査読付き学術ジャーナルに論文を掲載することでその成果を世に知らしめ、その繰り返しにより研究者としての評判を得て、研究費獲得や昇進につなげています。個々の論文は通常、学術ジャーナルの発行をもって公開となりますが、査読前の論文を予めプレプリントサーバーと呼ばれるサーバーに登録してオープンに共有し、追って出版者から論文を出版する習慣が、幅広い分野で検討され始めました。

プレプリントサーバーの拡がり

 プレプリントサーバーは高エネルギー系の領域で1991年にロスアラモス研究所で立ち上がったものが最初であり、現在はarXivと呼ばれるサーバーに査読前の論文が多数登録されています。まず、このarXiv内で登録される論文の分野に広がりがみられ、現在、数学、経済、統計の論文などが登録されるようになりました。

 続いて、2013年にはコールド・スプリング・ハーバー研究所により生物系のプレプリントサーバーbioRxivが立ち上がりました。2016年になるとオープンサイエンスの推進を進めている米国のCenter for Open Science(COS)が、社会科学、工学、心理学、農学のプレプリントサーバーを相次いで立ち上げました。

 COSはarXivも含めた各種のプレプリントサーバーを統合して検索できるサイトOSF Rreprintsも開発しました。このサイトによると2017年3月現在、約200万本のプレプリント論文が検索できるとしています。

 さらに、オープン化にはもともと保守的とされている米国化学会も、化学系のプレプリントサーバーChemRxivを立ち上げることを2016年に発表しています。

プレプリントサーバーが持つ可能性

 時に数ヶ月以上かかる査読や出版に先立ち、プレプリントサーバーに掲載することで、投稿者はその研究の成果をいち早く世に知らしめることができます。また、オープンに公開することで、Google検索などにより多様な分野の探索が一括でできるようになります。

 査読前の論文をオープンに公開する文化が分野を問わず根付くと、出版の仕組みや事業の枠組みが根本的に変わる可能性もあります。例えば、ディープラーニングの分野では一日おきにarXivに関連の論文が投稿されて、前日公開されたarXivの論文が引用されることも起きていることがオープンサイエンスに関するセミナーで紹介されています。既存の出版者を一切介さずにこれまでにない速さで研究成果のオープンな公開と共有そして引用が実現しています。

 また、オープン化が浸透すればマシンリーダブルな環境がより簡便に整い、今後のビッグデータ活用や人工知能との組み合わせることで、人が読める情報量を圧倒的に超えるデータから、個々の論文、研究の発見可能性(discoverability)が高まることが期待されています。

誰が質の保証をするのか

 一方で、あくまで査読済みの一定の質を保った論文を発表することが、研究成果公開においてもっとも重要であるとし、事前の公開を好まない研究領域が依然多いのも事実です。実際、化学系のプレプリントサーバーは2000年頃に大手商業出版社のエルゼビア社で試行されましたが、盛り上がることなく休止しました。物理系の研究者の中でもarXivには不正確な情報が多いとして批判的な立場を取る方もいます。あるいは、プレプリントサーバーに登録後、その内容を最終出版物として学術ジャーナルでは出版しない論文も見られており、プレプリントで公開した後の査読の重要性も議論されています。

オープンサイエンス時代の研究成果公開メディアに向けて

 ICTの進展によって、研究成果の公開と共有を進める様々なツールやプラットフォームが提供されるようになりました。このような新しい研究インフラが研究活動そのものを変えるという認識が広がりつつあり、オープンサイエンス政策がもたらす1つの可能性として各種の取組が行われています。そのような中、一部では浸透しているプレプリントサーバーを活用した研究者の成果公開が、研究者の一般的な習慣として実際に根付いていくかどうか、また、その先に見える新しい研究活動像に注目が集まります。




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